投票制度と民意の反映

またはオタクが山田太郎を当選させて有頂天になってる話

前提知識

民主主義対民主主義という本があり、この知識を前提に進める。

https://www.amazon.co.jp/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E5%AF%BE%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9-%E5%8E%9F%E8%91%97%E7%AC%AC2%E7%89%88-%E5%A4%9A%E6%95%B0%E6%B1%BA%E5%9E%8B%E3%81%A8%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%82%B9%E5%9E%8B%E3%81%AE36%E3%82%AB%E5%9B%BD%E6%AF%94%E8%BC%83%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%88/dp/432630233X

内容としては、民主主義国家の制度を比較して、民意を政治に反映させるにあたり、どの制度が優れているのか、について比較検討している。

結論の1つとして、二大政党制よりも多党制の方がよりきめこまやかに少数意見などの民意を反映させやすく、民主主義としては優れている、というのがある。この結論を前提に投票制度の善し悪しについて述べる。

小選挙区

小規模の選挙区から1人のみを投票で選出する選挙制度小選挙区制と言う。そしてこの選挙制度は二大政党制にとって大変都合の良い選挙制度である。ある選挙区で何人の立候補者が出ようとも当選するするのは1人しかいないため、現職(多くの場合は与党であり、最有力候補である)とその対抗馬として野党の有力な候補を1人出馬させての一騎打ちしか、挑戦側には選択肢が無い。一方で、そのように野党側候補者が統一できた上で拮抗している場合、すなわちよく二大政党制が機能している場合、数少ない票数差で勝つことができる。このとき、全体としては少数の票が移動しただけでも当選者の比が逆転して大きな差が付く可能性がある。

一方で有権者側からすると票に乗せられる民意は乏しい。小選挙区で選べるのは(多くの場合現職の)最有力候補に投票するか、それが気に入らないなら2番手に投票するしかない。3番手以降に投票するのは事実上棄権と同じことだからだ。つまり2つからマシな方を選ぶのが小選挙区制でできる唯一の行動であり、そこにマイノリティの意見を乗せる余地はない。

中選挙区制

比較的広い選挙区から3-5人を投票で選出する選挙制度である。この制度になると与党が1-2人、有力野党が1人の他に、末席に議員をねじ込める中小政党が出てきて、面々としてはかなりバラエティ豊かになる。有力政党があまりに欲張って立候補者を増やしてしまうと、支持者の票を分け合って全員落選するリスクが生じるため、トップ当選が確実視されていても候補者を増やすのが難しいことがあるからである。

有権者からすると10-20%程度の少数派意見でも集約できれば、末席に当選者を送り込む余地が出てくるので、小選挙区よりもかなり選択肢の幅が広がる。野党を比較検討し、より優れた野党を選択することもできる。また、与党支持者にしてもより良い候補を選ぶ余地があるかもしれない。与党内でも票数に差を付けることができれば、結果的に気に入らない候補を外す圧力として機能するかもしれないからである。

比例代表制(拘束名簿式)

(多くの場合)全国区で政党に対しての投票を行う選挙制度である。今まで出てきた選挙制度でむずかしかった、地域に立脚しないマイノリティの意見を拾うことができるようになる。理論的には議席が100あれば1%の得票で政党は当選者を送り込むことができる。

ただし、この制度は愚直に適用すると小政党が乱立することになる。あまりにも小政党が乱立し過ぎることは一般に良くないとされており、最低得票率に到達しないと議席が配分されない、阻止条項を持つ国も多い。例えばドイツの阻止条項は5%である。この場合、マイノリティへの対応能力は阻止条項の障壁の高さに応じて下がる。

有権者としては死票が出にくい制度であるので、自分の考えに最も近い党へ投票すればよく、シンプルではある。一方で人を選ぶことができる制度ではないので、党の名簿の順序に当選者が依存することになる。このため党に政治家個人の思想が反映されずらくなったり、特定の候補者を落とすなどの戦略的な投票はしづらくなる。

このように欠点も多いので比例代表単体で運用されることは少なく、小選挙区制との併用であったりすることが多い。

非拘束名簿式比例代表制

比例代表の欠点であった「人が選べない」という欠点を解消した比例代表制。党の名簿を有権者が作ることができるという点で投票に反映できる民意の幅は広がる。例え一党独裁であったとしても党内の順位が民意によって決まるため、一党独裁下の民主主義というなんかよくわかないものすら実現できる。当落線上の候補における1票の価値がかなり高いので戦略的な投票もかなり有効である。あんま良く分かってない有権者もとりあえず党名書いておけばいい。

ちなみに前述の本はこの制度ができる前に書かれた論文がベースで記述が無いので、ぼくの独断と偏見しか書いてない。

日本特有の話

日本特有の話としては、長きにわたって自民党が与党であった都合で、政権を担当する能力を野党が保持していない点と、自民党内派閥が擬似的に政党として多様性を担保していた一方で、派閥が解消されて多様性を喪失しつつある点が挙げられる。前者は二大政党制への移行が、自民党の分裂でもない限り困難であることを示し、後者は現状一党独裁への危険を孕んでいることを示している。

従って民意として「自民党が与党であることは肯定的ではあるが、その力を制限したい」「どの自民党候補を当選させるかを選びたい」というのが投票・民意反映の中心行動となる。前者は野党第一党に対する無条件のボーナス投票になる。後者は今まで限定的で殆ど介入は不可能だったのだが、非拘束名簿式比例代表制はこれを実現可能にする。

結論

非拘束名簿式比例代表制は民意を政治に反映する最良の選挙方式であり、このとき候補者の名前を書く一票は、他のどのような選挙制度よりも効果が大きな一票である。選挙で山田太郎を当選させた人はそれを一番よく分かっている筈だ。